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東京高等裁判所 昭和38年(う)1873号 判決

被告人 戸倉政雄

主文

原判決を破棄する。

被告人を判示第一の罪につき懲役一年六月、判示第二の罪につき懲役一〇月に処する。

但しこの裁判が確定した日から三年間右各刑の執行を猶予する。

留置してある見積書一〇通(当庁昭和三八年押第七〇四号の二のうち、昭和三〇年八月一五日付、同年一二月一〇日付、昭和三一年三月二二日付、同年七月二四日付、同年一一月一四日付、昭和三二年三月七日付、同年七月八日付、昭和三三年三月八日付、同年九月四日付、及び昭和三四年二月六日付の山崎軽金属株式会社山崎栄作成名義の見積書各一通)は、いずれもこれを没収する。

原審及び当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、水戸地方検察庁検察官検事岸川敬喜作成名義の控訴趣意書に記載されたとおりであるから、これをここに引用し、当裁判所は事実の取調を行つた上、これに対し次のとおり判断する。

なるほど昭和三七年六月一日付本件起訴状及び原判決書によれば、原判示第一の(一)の詐欺の事実(罰条刑法第二四六条第一項)に対応する公訴事実中、昭和三〇年八月一五日頃から昭和三二年三月七日頃までの間六回に亘る各私文書偽造(罰条同法第一五九条第一項)及び、昭和三〇年九月三日頃から昭和三二年三月一三日頃までの間六回に亘るこれら偽造私文書の行使(罰条同法第一六一条第一項第一五九条第一項)の点については既に右公訴提起前、右詐欺の事実とは独立に刑事訴訟法第二五〇条第四号所定の五年の公訴時効が完成したものとして、同法第三三七条第四号により免訴の言渡をなすべき場合に該当するものとしてこれを処理していることは所論のとおりであるが、原判決挙示の証拠によれば、右各私文書偽造、同行使の事実は、いずれもこれを認めることができ、しかもこれらは右各偽造私文書行使の一両日乃至十数日後に行われた判示第一の(一)の各詐欺の事実と順次手段結果の関係にあり刑法第五四条第一項後段所定の牽連犯として、その最も重き罪の刑に従つて処断すべき場合に該当するところ牽連犯に関する公訴の時効はその結果たる行為が手段たる行為の時効完成後に実行された場合のほかは、最も重い罪につき定めた刑を基準として、牽連犯を構成する犯罪行為全体につき時効の成否を決すべきものと解するのを相当とし(大審院昭和七年一一月二八日判決、大審院刑事判例集第一一巻第一七三六頁以下参照)、本件においてはその最も重い詐欺罪の刑につき定めた公訴時効(刑法第二四六条刑事訴訟法第二五〇条第三号により七年)に従うべきところ、その犯罪後右時効期間を経過していないこと算数上明白である昭和三七年六月一日に公訴を提起せられた本件各私文書偽造、同行使の罪については未だ公訴時効は完成せず、公訴権は消滅していないものと言わなければならない。果して然らば、原判決がこれと見解を異にし、公訴時効が完成したものとして公訴事実中、これらの点につき実質上免訴の提起に出でたのは、刑事訴訟法第三七七条第四号の解釈適用を誤まつたものであつて、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は破棄を免がれない。

よつて刑事訴訟法第三九七条に則り原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い被告事件につき更に判決をする。

当裁判所の認定した「罪となるべき事実」及び「併合罪の余罪」は、原判示第一の(一)の事実中、冒頭から「右日立工機株式会社専務取締役桑田信一(職制改正にともない同三十一年十一月二十一日以降は経理部長印藤一雄)に対して提出し」までを

「山崎軽金属株式会社代表取締役山崎栄名義を冒用して同会社の見積書を偽造し、これを行使してアルミダライ粉を騙取する目的をもつて別紙犯罪事実一覧表第一(甲)の1乃至6記載のとおり、昭和三〇年八月一五日頃から昭和三二年三月七日頃までの間六回に亘り同市(勝田市)武田一一六番地の四の被告人の自宅において、見積書用紙を使用し、これに、擅に、偽造にかかる「東京都板橋区志村前野町三七二、山崎軽金属株式会社山崎栄」と刻したゴム印及び山崎と刻した印等を押捺しその他所要事項を記入して、右山崎軽金属株式会社の作成すべき日立工機株式会社宛のアルミダライ粉の見積書六通を作成偽造した上、別紙犯罪事実一覧表第二の1乃至6記載のとおり、昭和三〇年九月三日頃から昭和三二年三月一三日頃までの間六回に亘り、何れも前記日立工機株式会社において右払下業務を担当する同会社資材課長大津信一に対し、真実右山崎軽金属株式会社から依頼されて来たもので、右各見積書がいずれも真正に成立したものの如く装つてこれらをそれぞれ提出し、同人を介して更にアルミダライ粉払下の権限を有する右日立工機株式会社専務取締役桑田信一(職制改正に伴い昭和三一年一一月二一日以降は経理部長印藤一雄)に対して提出して行使し、その都度」

と改め、同第一の(二)及び第二の事実中、各「別紙犯罪事実一覧表第一」とあるのをいずれも「別紙犯罪事実一覧表第一(乙)」と改め、新に別紙犯罪事実一覧表第一(甲)を附加し、別紙「犯罪事実一覧表第一」の表題を「犯罪事実一覧表第一(乙)」と改め、同犯罪事実一覧表第二の「偽造文書行使の日時」の欄中、「但し6までは虚偽文書提出の日時」を削り、1の項の「行使した偽造文書」欄に「犯罪事実一覧表第一(甲)番号1記載の見積書」、2の項乃至6の項の同欄に、それぞれ「番号2」「番号3」「番号4」「番号5」「番号6」と各附加し、7の項の同欄に「犯罪事実一覧表第一番号1記載の見積書」とあるのを「犯罪事実一覧表第一(乙)番号1の見積書」と改めるほか、原判示冒頭、第一(一)及び(二)、第二、原判決書添附別紙犯罪事実一覧表第一、及び第二並びに原判示「併合罪の余罪」の各事実と同一であり、これに対する証拠の標目は、それぞれ、(罪となるべき事実につき)証人山崎栄及び被告人の当公判廷における各供述のほか、原判決挙示の対応証拠と同一であるから、その各記載をここに引用する。

法令に照らすと被告人の判示所為中、各私文書偽造の点は刑法第一五九条第一項、各偽造私文書行使の点は同法第一六一条第一項、第一五九条第一項、各詐欺の点は同法第二四六条第一項に該当するところ判示第一(一)(別紙犯罪事実一覧表第一(甲)の1乃至6)、同第一(二)(同犯罪事実一覧表第一(乙)の1乃至4)の各私文書偽造は、それぞれ順次判示第一(一)(二)及び第二(同犯罪事実一覧表第二の1乃至10)の各偽造私文書行使及び詐欺と手段結果の関係があるので、同法第五四条第一項後段第一〇条によりそれぞれ重い詐欺罪の刑に従い、判示第一((一)(二))の罪と、前示確定裁判を経た罪とは同法第四五条後段の併合罪であるから同法第五〇条により更に処断することとし、判示第二の各罪は、同法第四五条前段の併合罪であるから、それぞれ同法第四七条本文第一〇条に則り、両者につき、犯情の最も重い別紙犯罪一覧表第二の6の詐欺罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、後者につき犯情の最も重い同表の8の詐欺罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役一〇月に処し情状にかんがみ同法第二五条第一項第一号を適用してこの裁判が確定した日から三年間右各刑の執行を猶予し、主文第四項掲記の見積書一〇通は、いずれも判示私文書偽造の行為より生じ、且つ判示偽造私文書行使の行為を組成した物であつて何人の所有をも許さないものであるから同法第一九条第一項第三号第一号第二項に則りこれを没収し、原審及び当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小林健治 遠藤吉彦 吉川由己夫)

犯罪一覧表(略)

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